第110章 【アイシテル】
「・・・英二くん・・・」
微かに聞こえた声に目を見開いた。
慌てて振り返ると、そこにはオレを真っ直ぐに見つめる小宮山・・・
ゆっくりと立ち上がると、そんなオレに小宮山が深々と頭を下げる。
「な、なんで・・・?」
何が起きたか分からなかった。
見間違えるはずなんかない、聞き間違えるはずもない・・・
だけど、遠いイギリスに行ってしまったはずの小宮山が、今、目の前にいることが信じられなくて・・・
「・・・小宮山・・・?」
「はい、小宮山です。」
何度も繰り返したやり取り・・・
懐かしい・・・
ついこの間のことなのに、はるか昔の事のように感じて・・・
「良かった・・・逢えて・・・」
あ、えっと・・・、上手く話せない、頭が混乱して・・・
あんなに求めていた小宮山が、こうして会いに来てくれて、オレの目の前にいるのに・・・
もし会えたら、今までのことをひたすら謝りたいって思っていたのに・・・
ハッとして、慌てて小宮山に駆け寄った。
そうだ、混乱している場合なんかじゃない。
なんでイギリスにいるはずの小宮山がここに居るのかはわからないけれど、今、オレの目の前にいる、それは紛れもない現実で・・・
「小宮山っ!あのさ、オレ・・・」
沢山、言いたいことがあったんだ。
ごめんって謝るだけじゃなく、小宮山と別れてから話せなかった分、沢山、本当に沢山・・・
だけど、そんなオレに小宮山は笑顔を向けるから、途端に何も言えなくなる・・・
話したいことが沢山あるはずなのに、その穏やかな笑顔の前では、ただ立ち尽くすしか出来なくて・・・
「これから英二くんのお宅に伺おうと思っていたんです。」
「・・・オレんちに?」
思いがけないその言葉に、ますます戸惑って・・・
そんなオレに、はい、これをお返しに、そう言って小宮山が紙袋を差し出す。
これって・・・?、不思議に思って中を覗くと、そこには青春学園高等部のセーラー服が入っていた。