第110章 【アイシテル】
空っぽの心で空っぽの空を眺める。
不二と市川にはちゃんと手紙を書いたのに、オレにだけ何も告げず、小宮山がいなくなってしまった現実を受け入れられなくて・・・
真っ直ぐに伸ばす両方の腕。
絶対に届くことのない空に向かって、真っ直ぐに・・・
「小宮山・・・」
震える唇を動かし呼んだ愛しい名前。
伸ばした腕と同じで、本人に届くことなんてもうないのに・・・
ゆっくりと両手を降ろすと、背もたれに寄りかかる。
結局、オレが来る場所はここしかなくて・・・
小宮山が来ないのはわかっていても、ここでずっと待ち続けるしかなくて・・・
降ろした手をポケットに移動し、中から携帯を取り出す。
片手で操作し、呼び出した小宮山のアドレス・・・
LINEはとっくに削除した。
オレが小宮山に勝手に裏切られたと思い込んで捨てた時に。
だけど、携帯番号とメールアドレスの方は、最初の頃に使っていただけだったから忘れていて、そのおかげで連絡帳にまだ残っていて・・・
スクロールさせて遡るメールのやり取り。
まだセフレだった頃のものだから、それはオレからの一方的な呼び出しのものばかりで、小宮山からの返事は「はい」や「分かりました」の一言しかない簡単なもので・・・
『小宮山、ごめん、許してよ・・・』
左上の送信をタップすると、すぐさま届いた宛先不明のメッセージ。
通話に切り替えると、「おかけになった番号は・・・」と、虚しく響く機械の音声アナウンス・・・
もう何度も同じことの繰り返し・・・
「はは、オレ、なにやってんだろ・・・」
乾いた笑いと同時に、またじんわりと涙が滲む。
分かってる、もう小宮山はオレの手の届かないところに行ってしまったんだって・・・
もう、オレの呼びかけに応えてくれることはないんだって・・・
分かっていて、それでも呼びかけることをやめることなんか出来なくて・・・
「・・・小宮山・・・」
また帰ってくるはずのない返事を求めて、その名前を呼んだ。