第109章 【カラッポ】
「・・・英二、璃音ね、もともと卒業したらイギリスの大学に進学を希望してたんだって・・・」
呆然と小宮山の部屋を見上げるオレの耳に聞こえた市川の声。
ゆっくりと振り返ると、同じように自分で確かめないと気がすまがったであろう市川が、今にも泣きそうな顔で立っていた。
「一年の頃から、ずっと進路希望調査にイギリスの大学を書いてたって・・・だけど、急に予定を早めて、家族で移住することになったって・・・」
卒業後にイギリスの大学・・・?
何言ってんだよ・・・オレ達、進路のことだって話し合ったけど、小宮山、そんなこと一言も・・・
「これ、璃音からの手紙・・・机の中に入っていたの・・・きっと学校に挨拶に来た時に入れたんだと思う・・・」
そっと差し出された封筒・・・
恐る恐る受け取り中身を確認すると、確かにそこには小宮山の字で、イギリス行きのことが書いてあって・・・
ひたすら「ありがとう」と「ごめんなさい」が繰り返される文章は、本当に小宮山らしくて・・・
この小宮山の家とその手紙を見ていたら、嫌でも小宮山がいなくなったことを思い知らされるのに、だからこそ納得なんてできなくて・・・
「・・・だって、小宮山、文学部にするって・・・あんとき、オレにそう言って・・・」
そう言って・・・?
あのとき、オレの家に泊まって帰る途中、あの公園の東屋でオレが小宮山に進学しないで就職するって打ち明けたとき・・・
『小宮山は、やっぱ、文学部にすんの?』
『・・・そうですね、外国文芸について専攻したいと思っています・・・』
違う・・・あの時、文学部にするって言ったのはオレ・・・
小宮山がこのまま、青春学園大学部に進学するって決めつけて・・・
ドクン___
大きく心臓が騒ぎ出す。
鮮明に蘇る記憶・・・
オレじゃなく、あの時、小宮山がオレに言った言葉は・・・