第109章 【カラッポ】
「・・・クラスメイトの小宮山だが、みんなよりひと足早くこの学校を巣立ち、新たな道へと歩みだした。」
・・・?、先生の言っている意味が、よく分からなかった。
教室内がざわめき、みんなの視線がオレに集中するのは感じた。
「先生、それって・・・転校?」
「やっぱり、あのことが原因かな?」
クラスメイトの疑問の声・・・
どういうこと!?、ひときわ大きい声で市川が叫ぶ。
言いにくそうに先生が言葉を発する。
「小宮山は父親の単身赴任先であるイギリスに、急遽、家族で移住することになってな・・・」
イギリス・・・?
小宮山のとーちゃんのところに・・・?
「みんなによろしくと・・・せっかく小宮山もクラスに打ち解けたのに残念なのだが・・・」
呆然としたまま周りに目を向ける。
同じように驚いているもの、素直に事態を受け入れているもの、オレと目が合い気まずそうにそらすもの・・・
そして目に止まった小宮山の机・・・
英二くん___
自然と思い浮かべる小宮山の笑顔・・・
「菊丸!」
気がつくと教室を飛び出していた。
先生の呼び止める声になんか構っていられなかった。
小宮山が突然イギリスに行ったなんて、信じられるはずなくて・・・
だって小宮山、今日から学校に来るって言ってたじゃんか!
それがなんで急にイギリスに移住することになってんだよ!
施錠が済んだ校門をよじ登り、一気に坂を駆け降りる。
電車に飛び乗り、青春台の駅から必死に小宮山の家を目指す。
ウソだ、そんなはずない、そう不安で押しつぶされそうな胸の痛みを振り払いながら、なんとか辿り着いた小宮山の家・・・
「小宮山!!いるんだろ!?、嘘だよな!?イギリスに行ったなんて、そんなの嘘だよな!!」
玄関を叩きながら夢中で声を張り上げる。
だけど、気がついてしまった閉まりっぱなしの雨戸・・・
数歩後ずさりし、恐る恐る見上げた小宮山の部屋・・・
小宮山がいつも座っていたその窓辺には、
もうお気に入りの白いカーテンは掛かっていなかった___