第109章 【カラッポ】
「・・・土下座しなさいよ?」
その瞬間、中心にいた女がそう低い声を上げた。
その女の顔を、信じらんない気持ちで眺めた。
ここで・・・土下座しろって言うのかよ・・・?
沢山の、登校してきた生徒たちがみているこんな場所で・・・
「聞こえなかったの?、土下座しなさいよ?」
動けないでいるオレにもう一度女が繰り返す。
なんで、そこまでしないといけないんだよ?、とか、調子に乗ってんじゃねーよ、とか、そう言い返したい衝動を必死に堪える。
「ほら、早くしなさいよ?」
携帯をオレに向ける女の曲がった口角・・・
その女の歪んだ顔は、まさに以前のオレそのもの・・・
体育館倉庫で無理やり犯した小宮山を嬉嬉として動画に収めた・・・
なんだっけ・・・こういうの・・・
因果応報・・・?
自分がしてきたことを思えば、こんな屈辱も当然なのかもしんない・・・
グイッと震える拳を握りしめると、フーっと静かにため息をつく。
突き刺さるような視線の中、覚悟を決めて膝を曲げた。
「みんな、英二がすまない!」
まさに地面に膝をつきそうになった瞬間、目の前に飛び出してきた人影・・・
サッと手の平を伸ばし、オレの土下座を遮っている。
この声って・・・
信じられない思いで顔を上げると、そこには、大石が頭を深深と下げていた。
「大石、なんで・・・?」
目を見開いて問いかける。
だって、大石はほかの学校に進学して、こんな時間にこんな所にいるはずがなくて・・・
そんなオレの言葉に、振り返った大石はただ黙って微笑んで、それからまた前を向き頭を下げる。
その様子にハッとして、なんで大石が謝ってんだよ!、そう慌てて立ちあがりそれを止めた。
大石が来てくれたのは嬉しいけれど、これは全てオレの身から出た錆で・・・
なんの関係もない大石に謝らせるわけにはいかなくて・・・