第108章 【セイナルヨルニ】
コンコン
控えめにドアがノックされて、璃音、起きてる?、そうお母さんが顔を覗かせる。
慌てて振り返ると、あ、すぐに行くね、なんて答えて、携帯の向こうの周くんにも謝る。
『それじゃ、あとで迎えに行くよ。』
今日はクリスマス・イブ、周くんと約束をした日・・・
周くんの気持ちを受け入れたいと思ったとき、私から今日は一緒に過ごしたいとお願いした・・・
いよいよなんだ、そう思ったら、ソワソワして落ち着かない気持ちになってしまう。
は、はい、待ってます、そう応える声が少し上ずってしまい、携帯の向こうの周くんにクスクス笑われた。
「ゴメンね、周くんと通話中だったんでしょ?」
「そうだけど・・・でも大丈夫、少しお話してだけだから・・・」
通話を終わらせ身なりを整えると、お母さんの朝食の用意を手伝う。
いつの間にかお母さんまですっかり「周くん」呼びが定着しちゃって、なんでよ、そう思わず苦笑いをしてしまう。
「今日は周くんのお宅に行くんでしょ?」
「うん、うちだとネコ丸がうるさいんだもん・・・」
終業式の日、英二くんが現れたことで動揺した周くんといい雰囲気になったとき、ネコ丸が急に大きな声で鳴き出したから、それ以上先に進む雰囲気じゃなくなっちゃって・・・
あの時は心の準備ができていなかったから、正直、ほっとしたんだけど、周くんには申し訳ない気持ちでいっぱいで・・・
周くんだってオトコノコだもん・・・
きっと、我慢してくれてるんだと思う・・・
でも、私のことを一番に考えてくれて、私のペースにあせてくれているから、そんな周くんの優しさが、本当に嬉しくて・・・
だから、今日は約束通り、ちゃんと周くんと向き合おう、そう思うと顔が赤くなってしまって、そんな私を見たお母さんに、幸せそうね、なんてからかわれるから、恥ずかしくて慌てて顔を引きしめた。