第107章 【ヌクモリヲモトメテ】
「とにかく、英二、家に帰ろう。すっかり冷たくなって・・・一体、何時間、外にいたんだ?」
家に・・・?
帰りたくない・・・でも、帰るしかない・・・
どんなに居づらくだって、オレの家は公園を抜けた先にある、あの赤い屋根の・・・
だけど・・・
「オレ、ここにいる・・・小宮山が来るかもしんないから・・・」
そんなオレの言葉に、英二・・・、そう大石が眉を下げる。
分かってる、そんな顔しなくったって、オレ、分かってるよ・・・
小宮山はきっともうここには来ない・・・
ううん、ここ、じゃない・・・
正確には、オレのところにはもう・・・
「・・・帰ろう、送るよ。」
大石のその声に、うん、と小さく頷いた。
大石に促されて、トボトボと歩き出す。
少し歩いては立ちどまり、ぼんやりと空を眺める。
それから慌てて振り返り、東屋を確認してはまた大石に促される・・・
何度も、何度も・・・
小宮山の家と反対側の公園の出口まできて、やっと振り返るのをやめる。
諦めきれないけど・・・後ろ髪を引かれ続けているけど・・・
目の前の、もうひとつの現実と向きあわないと行けないから・・・
公園を抜けた先、すぐに辿り着いた大きな赤い屋根の家。
出窓には複数の影が見えているのに、以前のように楽しそうな笑い声は聞こえない・・・
オレのせいで・・・笑顔が耐えない家だったのに・・・
「英二、大丈夫か・・・?」
大石が心配そうな顔で覗き込む。
ん、そう小さく頷いて、目の前の家のドアに鍵を差し込む。
「・・・ただいま。」
何とか振り絞った声はやっぱり震えていて、でも、そんなオレの小さな声に、バタバタとかーちゃんが大慌てで駆け寄ってくる。
「・・・かーちゃん、あの、さ・・・オレ・・・」
かーちゃんの目を見ることが出来なくて、俯いたまま黙り込んだオレに、おかえりなさい、そうかーちゃんが声をかける。
いつものように元気はないけど、オレを包み込んでくれる暖かい声・・・