第107章 【ヌクモリヲモトメテ】
「不二くんが居てくれるから・・・」
少し恥ずかしそうに頬を染めて、不二の手を取った小宮山・・・
オレの目の前で・・・
オレじゃなく、不二の手を・・・
「・・・もう、僕の彼女を振り回すのは、やめてもらおうか。」
まぶたの裏に張り付いて離れない不二の視線・・・
何度も繰り返す不二の声・・・
「でも、もう小宮山先輩は来ないですよ?、先輩が不登校にさせたんでしょ?」
芽衣子ちゃんの厳しい声・・・
そうだ、オレが全部壊したんだ・・・
全部、オレのせい・・・
全部、全部・・・
「小宮山・・・」
何度も何度も、繰り返す。
最初から・・・
そこの茂みでセフレとやってるところを目撃されて、腰を抜かしながら逃げていった・・・
体育館倉庫で、無理やり襲ったオレに、助けてと泣いて懇願した・・・
動画で脅して、無理やりその関係を強要した・・・
ちょっと怖い顔で睨みつければ、恐怖に震えながらなんでも言うことをきいた・・・
やっと小宮山を好きになったのに、オレの勝手で捨てることになって、でもオレを責めることなく必死に泣くのを我慢していて・・・
オレのせいであのカラオケ屋で仲間たちに輪姦されかけて、あの女の言われるがまま身体まで売ろうとして、なのに信じてやれなくて、結局、嫌がる小宮山をまた強姦した・・・
楽しいことも沢山あったのに、小宮山の笑顔を一番見てきたのはオレのはずなのに、もう怯える顔や泣き顔しか思い出せなくて・・・
唯一、思い出せる笑顔が、オレじゃなく、不二の隣で、不二に向けられたものだなんて・・・
そんな馬鹿な話があるかよ・・・?
呆然と、どこと言うでもない空間を眺める。
いつまでも、動くことが出来ず、ベンチに身体を投げ出したまま・・・
冬の夜はとても静かで・・・
世界中に、オレひとりが取り残されてしまったようで・・・
ハラハラと舞い降りる雪・・・
ああ、まるであの日のようだ、なんて、オレが侮辱して置き去りにした小宮山の、その呆然とした顔を思い出した。