第18章 【メバエタオモイ】
フーッと英二くんの溜め息が聞こえ、もう一度身体がビクッと跳ねる。
必死に耳を押さえても、それだけ耳元で吐かれたように、はっきりと聞こえてくる英二くんのため息は、私の心を恐怖という鎖で締め付ける。
それは、こんな関係になった頃のような、英二くんの笑顔に感じた恐怖ではなく、いついらないと言われてしまうか不安に怯えて感じる恐怖。
お願い、捨てないで……そう小さい声で囁いた。
すると次の瞬間、震える私の身体をふわっと柔らかい英二くんの香りが包み込んだから、え?って思って慌てて目を開けてみると、私は彼にそっと抱きしめられていた。
私の身体に回されたその腕はとても優しく包み込んでくれていて、私は戸惑いながら英二くんを見上げると、少し困った顔をした彼はそっと私の髪をなでる。
「え、いじ、くん……?」
「泣くなって……」
この状況が理解できず、どうして……?そう不思議に思って問いかけると、英二くんは、ごめんな、そう小さく震える声で呟いた。
「なんで、英二くんが謝るの……?」
「ごめん、あんな事させて、ごめん」
そう言って私を抱きしめる英二くんの腕に力がこもるから、思わずその背中に手を回しそうになり、あっと慌ててその手を引っ込める。
「いいよ、小宮山がそうしたいなら、さ」
そう英二くんがそっと耳元で囁いてくれたから、直ぐにギュッとその身体を抱きしめると、彼はもう一度、ごめんな、そう小さく呟いた。
それはいったい何のごめんなの……?
そんな不安な気持ちに気がつかない振りをして、今はただ力の限り英二くんを抱きしめた。