第107章 【ヌクモリヲモトメテ】
「・・・やっぱり、渋くなっちゃいましたね。」
淹れ直しましょうか、そう言いながら立ち上がろうとする璃音を、これも美味しいよ?、なんて制してアンティークのカップに口をつける。
突然現れた英二に動揺し、璃音を抱きしめているうちに、蒸らしていた紅茶はすっかり飲み頃を過ぎてしまって・・・
いくらストレートより長く蒸らすほうがいいロイヤルミルクティーとはいえ、流石に蒸らしすぎていて・・・
それでも、璃音が淹れてくれるお茶は、僕に安らぎを与えてくれる。
「ただいまー・・・不二くん、いらっしゃい。」
「こんばんは、今日もお邪魔しております。」
帰宅した璃音のお母さんに、いつものように笑顔で挨拶をする。
どことなく、その表情がいつもよりぎこちなく感じて、ああ、お母さんも英二に会ったんだな、そう直感した。
だけど、当然、そんなことは声には出さないで、璃音のお母さんも何も言わなくて、でも璃音も含めてみんなが察しているけれど、何事も無かったように振る舞い続ける。
「周くん、今夜も夕飯食べて行ってくださいね?、私、頑張りますから・・・」
「璃音は頑張らなくていいわよ、不二くんが笑顔で食べてくれるからって、本当はきっとすごく無理してるのよ。」
え!、本当ですか?、そう青い顔をする璃音に、そんなことないよ、そうクスクス笑いながら返事をすると、璃音はほっとした顔で頬を緩める。
「ところで、あなた達、呼び方変えたのね?お母さんも周くんって呼んじゃおうかな?」
「ダメ、お母さんは不二くんのままでいいの。」
「・・・璃音のケチ。」
「そういう問題じゃないでしょ?」
キッチンの母娘の会話を微笑ましく思いながら、璃音が料理と格闘する様子に目を細める。
きっと、この前までは当たり前にここに英二がいて、そして当たり前に馴染んでいたのに、今は、こうして僕を受け入れてくれる。