第107章 【ヌクモリヲモトメテ】
小宮山さんは、はっきり言ってくれたのに・・・
僕がいてくれるから、そう英二の目の前で、僕の手を取って・・・
なのに、こんなに不安で仕方がないなんて・・・
それも無理ないのかもしれない・・・
小宮山さんがどれだけ英二を想ってきたか、僕が一番近くで見てきて、嫌という程思い知らされてきたから・・・
「・・・不二くん、顔を上げてください?」
僕の腕の中で向きを変えた小宮山さんが、僕の頬に触れる。
こんな情けない顔、見られたくないのに、彼女はそんな僕の顔を真っ直ぐに見つめてくる。
「不二くん、そんな顔、しないでください?」
ふわりと触れた唇。
目を見開いて、それを手で覆う。
「私が好きなのは、不二くんですよ?」
参ったな・・・、思わずそんな声が溢れる。
僕の気持ちを全て見抜かれているだけじゃなく、まさか小宮山さんからキスしてくるなんて・・・
小宮山さんからキスされたのは、あの放課後の教室以来で・・・
あの時は、まだ小宮山さんは英二のセフレで、英二に脅されて無理やり僕にキスしてきて・・・
あの時と行動は同じなのに、僕に向けられた笑顔は全く違うもので、今は、こんなに優しさで溢れている・・・
「あ、あの、不二くん、紅茶、冷めてしまいますので・・・」
「うん、でも、もう少し、こうしていたいんだ。」
小宮山さんを思い切り抱きしめると、今度は僕の方から唇を重ねる。
紅茶を気にする彼女に構わず、その細い身体を抱きしめ続ける。
「・・・璃音、って、呼んでいいかな?」
「え?、あ、はい、構いませんけど・・・」
結局、英二が呼べなかった小宮山さんの名前・・・
僕が呼ぶことで、英二に優越感を感じるなんて、人間が小さいかな・・・?
「・・・璃音。」
「は、はい。」
「璃音・・・」
「はい。」
何度かその名前を繰り返す。
ずっと苗字で呼んでいた呼び方を、名前の方がしっくり来るように・・・