第107章 【ヌクモリヲモトメテ】
不二side~
突然、目の前に英二が現れて、小宮山さんが明らかに動揺を見せたから、急いで駆け寄る英二を遮った。
だけど、内心、本当に動揺していたのは僕の方なのかもしれない。
やっと僕を受け入れてくれた小宮山さんの中に、また英二の存在が戻ってきてしまうんじゃないかって・・・
『・・・もう、僕の彼女を振り回すのは、やめてもらおうか。』
アレだけ小宮山さんを傷つけ、その美しい心をボロボロにしておいて、今更、彼女の前に平気で現れた英二が許せなくて・・・
小宮山さんに相手にされなくて、愕然としている英二を敢えて追い詰めるように、ハッキリときついことを言った。
度重なる虐待の末、自分を捨てた実の母親が、大切な小宮山さんを利用しただけじゃなく、それがきっかけで今度は自分が小宮山さんを傷つけてしまったなんて、英二にとってこれ以上残酷な現実はないのに・・・
「不二くん・・・?」
小宮山さんの呼びかけにハッとする。
気がつくと彼女はキッチンにたっていて、あの?、そう紅茶とコーヒーの瓶を手に首を傾げている。
「紅茶で構いませんか?、それともコーヒーの方が・・・」
「・・・紅茶がいいな・・・リラックス出来る香りのやつ。」
慌てて笑顔を向けると、小宮山さんは少し考えて、それでは、ロイヤルミルクティーにしましょうか、そう言って僕に笑顔を返してくれた。
小宮山さんはなにも変わらないのに・・・
英二が現れた瞬間は動揺していたけれど、その後は何事も無かったように接してくれているのに・・・
「・・・小宮山さん。」
紅茶ポットにカバーを被せた小宮山さんを、後ろからそっと包み込む。
不二くん!?、驚いて振り返ろうとする彼女の後頭部に顔を埋めて、顔を見られることを拒否する。
「ごめんね、少しだけ、このままでいさせて・・・?」
ああ、声が震えている。
自分で感じているより、ずっと動揺していたようだ・・・