第106章 【フユゾラ】
「・・・菊丸くん?」
どのくらいその場にいたのか・・・
後からオレを呼ぶ声にゆっくりと振り返る。
そこには、驚いた顔の小宮山のかーちゃんが立っていて、ああ、もう、小宮山のかーちゃん、仕事から帰ってくる時間なんだ・・・、なんてぼんやりと思った。
「・・・あ、璃音、いるはずだけど・・・でも・・・」
気まずそうに言葉を濁す小宮山のかーちゃん・・・
きっと知ってる・・・不二もいるってこと・・・
もう、小宮山のかーちゃん公認の仲ってわけね・・・
慌ててその場から逃げ出した。
あっ!、そう小宮山のかーちゃんが声を上げたけど、それ以上は呼び止められなくて、オレも止まる気はなくて・・・
夢中で走ってたどり着いたのは、いつも小宮山と会っていた公園の東屋。
一ヶ月前と何も変わんないそこは、もう確実に何かが違っていて・・・
「・・・なんで、謝らせてすら、くんないんだよ・・・」
オレが小宮山に謝りに行ったのに、小宮山の方が何度もオレに頭を下げて・・・
自分だけ言いたいこと言って、さっさと不二と家に入っちゃって・・・
「ゴメン、小宮山・・・本当に、ゴメン・・・」
謝るから・・・オレ、何度だって謝るから・・・
小宮山が、もういいですよ?って、笑って許してくれるまで謝り続けるから・・・
だから、小宮山・・・
オレのこと、許してよ・・・?
不二のところになんか、行かないでよ・・・?
ベンチに身体を投げ出すと、見上げた夜空が涙で滲む。