第106章 【フユゾラ】
「・・・芽衣子ちゃん、あんがと、教えてくれて・・・オレ、小宮山んとこ、行ってくる。」
「私は別に・・・それに・・・」
机を綺麗にし終えると、何か言い掛けの芽衣子ちゃんに構わず教室から走り出す。
小宮山・・・会いたい・・・今すぐ、会って抱きしめたい・・・
頼むから、家にいて・・・オレ、今すぐ行くから・・・
走り抜けるオレの背中に、なんなのよ、そう女が叫ぶのが聞こえた。
だけど、そんな女なんか、もっと構ってらんなくて、振り向かずに走り続ける。
「・・・それに、もう、間に合わないかも知れませんけど。」
だから、そんな風に呟いた芽衣子ちゃんの言葉なんて、全く耳に届いてなくて・・・
ただ、小宮山の家に行けば、すぐにあの笑顔で迎えてくれるって信じて疑わなくて・・・
オレは、まだこの時、自分の考えの甘さに、ぜんぜん気がついていなかったんだ・・・
「・・・はぁ・・・はぁ・・・」
芽衣子ちゃんに真相を聞いてから、必死に小宮山の家へと走った。
息が切れて、苦しくて、もう訳がわかんなくなるくらい、必死に走った。
そして、やっとたどり着いた小宮山の家の前・・・
息を整える暇も惜しんでインターフォンを鳴らす。
小宮山・・・早く、出てよ・・・
留守・・・?、こんなときに、どこ行ってんだよ・・・?
すぐに小宮山の顔が見たいのに・・・
小宮山の顔を見て、抱きしめて、それから、今までのこと、ちゃんと謝るんだ・・・
焦る気持ちが先に出て、ついつい何度もインターフォンを連打してしまう。
「・・・英二?」
その瞬間、後から聞こえた声にビクッと身体が跳ねる。
この声・・・
聞き間違いなんかするはずない、昔から聞き慣れた声・・・
恐る恐る振り返ると、そこには、案の定、不二が目を見開いて立っていた。