第106章 【フユゾラ】
「・・・小宮山先輩には、絶対、言うなって言われたんですけど、こんなのあんまりです、黙ってなんかいられません・・・」
小宮山が言うなって・・・?
何を言うなっていうんだよ・・・
「小宮山先輩と不二先輩がホテルに行ったって噂がたった少し前・・・私、小宮山先輩と一緒にいた時に声をかけられたんです。」
小宮山と芽衣子ちゃんに声をかけた・・・?
いったい、誰が・・・まさか・・・
「・・・その人、先輩のこと、『英ちゃん』って呼んでました。」
ドクン___
その瞬間、大きな力に心臓を握りつぶされた。
それは、否定し続けた嫌な予感が、確信に変わった瞬間・・・
オレをそう呼ぶ女なんて、世界中でたった一人しかいなくて・・・
信じたくない、信じられない現実を、目の前に突きつけられたようで・・・
「・・・な、んで、あの女が・・・」
ガクガクと震える身体を抱きしめながら、自分に言い聞かせるように声にする。
ちょっと、英二、大丈夫?、そう女が心配そうにオレの顔をのぞき込む。
「・・・さあ?、私は、小宮山先輩に『小宮山先輩と英二先輩の問題だ』って言われてすぐ帰りましたから・・・でも、大体、予想はできますけどね、その人、私の義母と同類の匂いがしましたから・・・」
ウリでもしろって言われたんじゃないですか?、その芽衣子ちゃんの言葉に、その場に崩れ落ちた。
英二!、ちょっと、本当、どうしたの!?、そう騒ぐ女の声は聞こえていたけれど、構ってなんかいらんなかった。
「なんで、不二先輩とホテルに行ったなんて噂になったかはわかりませんが、きっと不二先輩のことだから、小宮山先輩の異変に気がついて助けに入ったってところでしょうね。」
まぁ、私の推測でしかありませんけど、そう吐き捨てるようにいう芽衣子ちゃんの言葉に、いんや、そう力なく声にする。