第106章 【フユゾラ】
「英二ぃー!」
膝の上に座るバカ女のセーラーの裾に手を滑り込ませながら、チラリと目に入る小宮山の席・・・
あの日から、ずっと誰も座らないままの・・・
「小宮山は風邪で休みだそうだ。」
小宮山を捨てた次の日、朝のHRで担任の先生がそう説明した。
あんな寒い日に外でやって放置したんだから、そりゃ、普通、風邪も引くよな・・・
ま、オレにはカンケーないけど・・・、そう頬杖をついたまま窓の外を眺めていた。
だけど、次の日も、そのまた次の日も、小宮山は学校に来なくて・・・
小宮山があのまま不登校になったことくらい、中学の小宮山のことを知ってるオレには簡単に想像できて・・・
だけど、全然悪いとは思わなくて、なんだよ、自分が悪いくせに、オレへの当てつけかよ、そう思って余計にイライラした。
そのうち、クラスの連中も小宮山はただの風邪じゃないと勘づきはじめて・・・
オレのこの変化に続いて小宮山の不登校なんて、完全にあの噂が本当だったって言ってるようなもんで・・・
誰もそのことに対して堂々と声をあげるやつはいなかったけど、みんなコソコソと噂話をしていた。
「菊丸くん、ちょっとカウンセリングルームに来てお話してみない?」
「・・・なに?、スクールカウンセラーの先生もオレとやりたいの?、まずくない?、オレは別にいいけど?」
とーちゃんとかーちゃんが先生に呼び出された後、覚悟していた謹慎や停学にはならなかったけど、校内でよくスクールカウンセラーに声をかけられるようになって・・・
きっとオレの生い立ちを考慮して、カウンセリングをって話になったんだろうけど、そんなの余計なお世話で・・・
だからいつもそんな風にテキトーにあしらって、カウンセリングなんか受ける気がなくて・・・
学校だけじゃなく、話を聞ききつけた大石まで出てきて、章高おじさんにカウンセラーを紹介してもらうって言い出して・・・
なんなんだよ、みんな、オレが悪いみたいに言いやがって・・・
オレはなんも悪くないのに・・・
周りに勧められれば勧められるほど、頑なに心を閉ざして拒み続けた。