第105章 【ココロノササエ】
「英二、擽ったい、もうちょっと我慢しなよー?」
「ヤダよ、オレ、我慢って嫌いなの!」
「だって、あんたこの前も生徒指導室呼ばれてたじゃん!、親だって呼び出されたんでしょ?」
「別に・・・退学になったって構わないし・・・どうせオレ、卒業できねーもん・・・」
廊下の向こうから近づいてくる鼻にかかった甘ったるい声と、すっかり聞きなれた英二の低い声・・・
見なくてもわかる、見たくもない光景・・・
不二くんは・・・顔色ひとつ変えずに私を見たまま・・・
英二も、やっぱり不二くんと視線を合わせることなく、そのまま通り過ぎる・・・
「・・・なんで、こんなことになっちゃったのよ・・・」
思わず口をついた言葉・・・
ごめんね、不二くんが申し訳なさそうに目を伏せる。
「いや、別に・・・不二くんを責めてるわけじゃないから・・・」
璃音には、一日でも早く学校に来れるようになってもらいたい・・・
だけど、例え来れるようになったとしても、英二があんなんじゃ、璃音を余計に苦しめるだけ・・・
「もうすぐ、冬休みだね・・・璃音、三学期からは登校できるかな・・・」
廊下の窓から冬晴れの空を眺める。
璃音もよく空を眺めていた・・・
今頃、あの窓辺に座って見ているだろうか・・・
どうかな・・・、そう微かに聞こえた不二くんの声に顔を向けると、彼も同じように窓の外の空を眺めていて・・・
彼は今、いったい何を見ているんだろう・・・?
そう、その誰にも心の奥底を悟らせない瞳をじっと伺いみると、私のその視線に気がついた不二くんが、ニコッと嘘くさい笑みを向ける。
きっと璃音にはもっと素直な笑顔を見せてるんだろうな・・・
僕が必ず小宮山さんを幸せにするから___
あの日、そう強い口調で約束してくれた。
「不二くん、璃音のこと、よろしくね・・・」
「うん、僕に任せて・・・」
本心の読めない笑顔だけど、今、一番璃音を大切に思ってくれているのはこの人・・・
今は、この笑顔にすべて任せよう、そう思ってまた窓の向こうの空を眺めた。
~美沙side