第103章 【ボクガシアワセニ】
「小宮山さんは汚くなんかない、とても綺麗だよ。」
腕の中の小宮山さんがピクッと肩を震わせる。
ふ、じ、くん・・・?、そう戸惑う声・・・
小宮山さんは、綺麗だよ、そうもう一度繰り返す。
「不二、くん・・・だって、私・・・」
「英二が何を言ったって、僕は小宮山さんが誰よりも綺麗だと思ってるし、こんなに素敵な女性はいないって信じてる・・・」
そう、小宮山さんほど聡明で素晴らしい女性なんていない・・・
英二が気づく前から、ずっと・・・
「でも・・・私・・・自分で自分を売ろうって決めたんです・・・どんな理由があったって・・・やっぱり、英二くんが言うとおり、すごく汚い・・・」
小宮山さん!!、自分を責める彼女の名前を呼ぶ声が大きくなる。
その僕の声に、彼女の身体がまたビクッと跳ねる。
「大声だしてごめん・・・、でも、何度も言うよ、小宮山さんは汚くなんかない、とても綺麗だよ。」
英二に投げつけられた言葉で、責める必要が無い自分のことを責めて・・・
小宮山さんは何も恥じることなんかないのに・・・
抱きしめていた小宮山さんの肩に手を添えると、その顔を真っ直ぐに見つめる。
相変わらず、まったく光がない瞳・・・
普段の強い意志も信念も、全く感じられないままの・・・
この瞳に、僕が光を取り戻したい・・・
・・・取り戻したいけど、今は、まず、すっかり冷えきってしまった小宮山さんを温めることが先決だ。
「小宮山さん、行こう?、このままじゃ風邪をひいてしまう。」
「行く・・・でも、私、こんなんじゃ・・・教室には・・・」
ポケットから【男子テニス部】とタグのついた鍵を取り出す。
幸い、ここから部室は近い。
あそこなら暖房もあるし、洗濯機もシャワールームもある。
ハンカチで拭き取っただけじゃとり切れない汚れを、綺麗さっぱり洗い流せるから・・・