第102章 【サクジョ】
「英二がその気なら、もう僕は遠慮しない。」
その言葉にピクっと肩が震えた。
いいんだね?、そう念を押す不二に、今更なにいってんだよ?、しっかり手ぇ出しといて・・・、なんて嘲笑った。
もう何も言わず、黙って走りさった不二の背中に舌打ちする。
なんなんだよ、そうどうしようもない胸の怒りを吐き出した。
「・・・市川、悪いけど、席、変わってくんない?」
教室に戻ると、真っ直ぐに市川の席に向かう。
もう小宮山と机を並べて座りたくなくて・・・
真っ先に市川に声をかけたのは、まだオレの中に小宮山への情けがほんの少しでも残っていたからかもしんない・・・
「はぁ?、なに言って・・・」
そんなオレの申し出に、弁当を食べ終わって友人たちと楽しそうに雑談していた市川が、怪訝そうに視線をあげる。
だけどすぐに言葉を失ったのは、オレがよっぽど情けない顔をしているためか・・・
「・・・分かった、ちょっと待ってて。」
納得出来ないことは、とことん追求してくる市川だけど、納得したことにはそれ以上深入りしてこないから、そんな市川の気遣いが今は本当にありがたい・・・
机を移動し終えて教室の窓から外を眺めると、さっき降り出した雪はすっかり本降りに変わっていた。
「どういうこと?」
「やっぱり、不二くんと璃音のことじゃない?」
「でも人違いだったって先生も・・・」
オレの様子にクラスメイトたちが、ヒソヒソと話している。
そんなやつらの噂話がさらにオレをイライラさせて・・・
キーン コーン カーン コーン
イライラしながら聞いた午後の授業の始業ベル・・・
それでも、小宮山は教室に戻ってこなくて・・・
さらにざわめく教室内・・・
「なんだ、小宮山はどうした?」
教科担任の言葉に、みんなの視線がまたオレに集中したのを感じたけれど、ただぼんやりと頬杖をついて外の雪を眺め続けた。