第17章 【ユウワク】
「クスッ……そんなに怖い顔しなくてもいいじゃない?」
彼について行った先は屋上で、朝の時間なんてわざわざそこに来る人なんていなくて……
人気のない場所に2人きりのこの状況に、思わず顔が強ばってしまい、そんな私を見て彼は楽しそうに笑う。
怖い……その笑顔に思わず息を飲み、嫌な汗が滲む。
不二くんが私に用事なんて、思い付くことは一つしかなくて、そのことを思うと心臓が嫌な鼓動でうるさく騒いだ。
不二くんが私の方にゆっくりと近づいてくるから、彼との距離を保って後ずさりをする。
やだ、どうしよう……怖いっ!!
そう慌ててドアノブに手をかけると、その手をさっと掴まれた。
この感じ、あの時と同じ……鮮明に残る以前の記憶とすっかり重なるこの状況に、尚更これから起こることに恐怖する。
「続きは今度って言ったのはキミじゃない……?」
そ、うだ……あのとき必死で……
私が不二くんを誘ったんだ……
『もし不二に誘われたらちゃんと応じてよね』
そう言った英二くんの顔を思い出し、恐怖で壊れそうな心臓をふるえる拳で押さえると、意を決して不二くんを見上げる。
すると不二くんの顔がすぐそこにあって、思わずまた後ずさりをすると、背中がドアにぶつかり、もうそれ以上の逃げ場はなくなった。
「こ、こで?誰か、来ますよ……?」
「フフ、僕、スリルを味わうのって大好きなんだ」
「じ、時間、ないもの……」
「大丈夫、すぐに気持ちよくさせてあげるよ?」
英二には負けない自信があるよ、そう言って笑う彼の鋭い目に見つめられて、身体が金縛りにあったかのように動けなくなる。
不二くんはそんな私の髪を掻き分けて首もとを露わにすると、コレ全部、英二?、そう言ってクスッと笑い、それから両手で私の肩を抱えゆっくりと唇を近づけた。
や、やだっ……でも……ちゃんとしなきゃ……
英二くんのお願いだから、ちゃんと応じなきゃ……
ギュッと瞳をとじると目から涙が零れ落ちた。