第100章 【コウショウ】
「……そう、あの人が……」
「はい、それで私……」
シャワーを浴びを終わった小宮山さんから、約束通り、この騒動の真実を話してもらう。
英二絡みとは確信していたけれど、まさか英二の実母が関係していて、その内容の酷さに受けた衝撃は相当で……
思わず声を失う僕に小宮山さんは苦笑いして、それから、それなのに私、ちゃんと出来なかった、そう俯いて涙を流した。
本当にこんな状況でも、キミは自分より英二のことを一番に考えるんだね……
そっと手を伸ばし、その涙を拭おうとして触れる直前に諦める。
小宮山さんの精神状態を思ったら、きっと気安く触れてはいけないから……
それにこんな場所で、しかもシャワーを浴びた小宮山さんに触れてしまえば、僕の理性が崩壊してしまいそうで……
それにしても、英二の実母が小宮山さんに売春を強要してくるなんて……
蘇る記憶……
まだ中学生だった冬のテニスコート……
突然現れた英二の実母が、英二にラケットを振り下ろすあの光景……
それは何度もまぶたの裏で繰り返されて、英二とはまた違った心の傷を僕たちテニス部員に植え付けた……
あの時、もっと早く、英二が深く傷つく前に止めることが出来ていれば、英二はテニスを諦める必要がなかったのに……
「……英二には……」
「言えません……こんなこと言ったら、英二くん、きっとすごく傷ついてしまいます……」
ゆっくりと首を振る小宮山さんの気持ちは分かるけど……
その瞳には、すっかり強い意志の光を取り戻していたけれど……
だからって、小宮山さんの選択は、絶対、正しいものではなくて……
「小宮山さん、今度、あの女から連絡があったら、必ず僕に知らせて……?」
小宮山さんが英二に相談出来なかった気持ちは、痛いほど良くわかる……
僕だって、こんなこと英二に言えやしない……
言えないからこそ、僕にだけは相談して欲しかったよ……?