第100章 【コウショウ】
「あの、不二くん、私、考えたらもうお金なくて、ここの料金……」
部屋に入ってガチャリと鍵が閉まると、小宮山さんはハッとして、それから僕に申し訳なさそうな顔をする。
「そんなことは気にしなくていいから、まずはシャワー浴びておいでよ?」
スッキリするよ?、そう言って差し出したタオル……
それを小宮山さんがじっと見つめて、それからふふっと頬を緩ませる。
やっと見られた小宮山さんの笑顔に、良かった、そう少しだけ安堵する。
それから、何がおかしかったの?、なんて問いかけると、あ、いえ、すみません、そう彼女は恥ずかしそうに俯いた。
「前に、その、英二くんともこんなやり取りしたことがあって……いい思い出ではないんですけど、なんか懐かしくて……」
クスクス笑いだした小宮山さんの目からポロリと涙がこぼれ落ちる。
すみません、そう謝りながらタオルに顔を埋めて泣き笑いする彼女の髪にそっと手を伸ばす。
だけどそんな彼女に触れることが出来なくて、ゆっくりとその手を戻した。
好きな人が目の前で涙を流しているのに、何も出来ないもどかしさに胸が苦しくなる。
小宮山さん、キミはなぜ英二の彼女なの……?
そんなこと今更で、もともと僕が望んだことなのに、押し寄せる胸の痛みには逆らえなくて……
「……先になんか飲む?」
「あ、いいえ、大丈夫です。シャワー、いただきます」
ぺこりと頭を下げて、小宮山さんがバスルームへと向かう。
小宮山さん!、慌てて呼び止めると、彼女が不思議そうに振り返る。
「浴び終わったら、ちゃんと話してくれるかな?」
「……はい、お話します、何もかも……最初から……」
小宮山さんがバスルームへと消えると、それからチラリと部屋に視線を向ける。
やっぱり、この状況はキツいな……、そう呟きながら深いため息を落とした。