第100章 【コウショウ】
「おじさま、お待たせ致しまし……た……」
まさか……?
聞き間違えるはずなんかないのに、見間違えるはずもないのに、自分の目と耳を疑った。
そこには、普段の小宮山さんからは想像出来ないくらい、派手な格好をした彼女が驚いた顔で僕を見ていたから……
「どうして……」
「マコトちゃん!、待ってたよ、さ、行こうか」
小宮山さん、そう僕が名前を呼ぶ前に、その男性が彼女に声をかけた。
マコト……?
まさか、他人の空似……?、いや、そんなはずない。
僕が小宮山さんを見間違えることなんか、あるはずがない。
だったら、本当にどうして……?
今日はせっかくの英二の誕生日なのに、遠方から親戚が来るから都合が悪くなったと聞いた。
でもその男性が、とても小宮山さんの親戚とは思えなくて……
そもそも、そんな格好で偽名を使い、必要以上に密着して歩く姿に、嫌な予感しかしなくて……
呼び止めようと思った瞬間、小宮山さんが視線だけ振り返った。
僕の顔をじっと見つめるその様子に、喉元まで出かかっていた言葉をグッと飲み込んだ。
本当はたくさん聞きたいことはあったのに、話しかけないで、そう僕に小宮山さんの目が訴えていたから……
小宮山さんの、あの確固たる意思を秘めた力強い瞳……
それはまるであの時と同じ……
放課後の教室で、英二に命令されるがまま、僕にキスをしたあの時……
それから、英二を庇うため僕をその気にさせようと、必死にできない演技をしたあの朝の屋上……
そう、小宮山さんがその力強い目をする時は、必ず、英二が関係しているはずなんだ。
だから、そんな彼女らしからぬ格好も、およそ本当の血縁とは思えない男性を「おじさま」と呼んで腕を絡めるその様子にも、きっとただならぬ理由があるはずで……
「姉さん、悪いけど、僕、急用ができたから先に帰るよ」
「え!?、急用って、ちょっ、周助!!」
「ごめん、みんなはゆっくり楽しんできて?」