第100章 【コウショウ】
「小宮山さん!」
「不二くん……!」
小宮山さんに手を伸ばすと、涙で顔を歪ませた彼女が僕の胸に飛び込んでくる。
乱された服装、震える身体、止まらない涙……
その様子に怒りが爆発しそうになるも、まずは部屋に入る前に助けられたことに安堵して……
良かった、間に合って……、そうその肩をそっと引き寄せる。
キュッと僕のジャケットの裾を握りしめる小宮山さんを、目を細めながら眺める。
本当に良かった、取り返しがつかなくなる前に助けることが出来て……
そう、ここまでの度重なる偶然に、心から感謝した。
「おかえりなさい、周助、帰ったばかりで悪いけど、すぐに準備してくれる?」
「どうしたの?、姉さん、そんな格好して……?」
帰宅すると正装をした姉さんに出迎えられた。
話を聞くと、姉さんのお得意さんが、占いのおかげで大成功を収めたとかなんとかで、お礼にフランス料理に家族を招待してくれることになったそうで……
悪徳霊感商法みたいだねってクスクス笑うと、失礼ね!、なんて睨まれて……
でも裕太も一緒だっていうし、それは楽しみだなって着替えを済ませて、それからフランス料理店へと向かった。
「ったく、突然呼び出されていい迷惑だよな」
「クス、そんなこと言って、裕太、デザートにつられてきたんじゃないの?」
「う、うるせぇ、兄貴!」
裕太とフランス料理店で合流して、席に案内される途中、通路にパスケースが落ちているのに気がついて……
これは……そう思って拾い上げると、それは誰かの社員証で……
落ちていた隣の席を確認すると、その社員証の写真の人が座っていて、ああ、良かった、そう安心しながら声をかけた。
「あの、これ、落し物です」
「……ああ、本当だ、ありがとう、助かったよ」
感じの良い穏やかそうな紳士が、そう言って社員証を胸ポケットにしまう。
いえ、それじゃ、そう言って立ち去ろうとしたところで聞こえてきた、馴染み深い澄んだ声……