第99章 【マコト】
「こんな高そうなお店……いいんですか?」
「もちろん、構わないよ、マコトちゃんが喜んでくれるなら、おじさん何だってしてあげるから」
「すみません、おじさま、ありがとうございます」
連れてこれらたのは、高級そうなフランス料理のお店……
私もこの手のお店には、両親に連れてきてもらったことがあるけれど、けっして気軽に入れるところではない。
それをこんな、数時間、買っただけの見知らぬ高校生と来るなんて……
嬉しい、そうまた気持ちとは裏腹な笑顔で嘘をつく。
「マコトちゃん、本当に上品だねー、マナーもしっかりしてる……なんでこんなおじさんと付き合ってくれるの?」
「それは……おじさまがとっても素敵だからじゃないですか」
はは、口がうまいなぁ、そうだらしなくニヤけるその人に、本当ですよ、なんていい気にさせながら、メインのお肉を口へと運ぶ。
美味しくない……
ううん、本当は美味しいはずなんだけど、味が感じられない……
でも、そんなの、当たり前……
こんな嫌な気持ちで何を食べたって、美味しいはずなんかないもの……
全く美味しく感じられない食事を美味しいと言って食べて、全く嬉しくないのに嬉しいって作った笑顔を見せて、この後、気持ち悪いのに気持ちいいって演技して、この人を受け入れなきゃいけない……
食事を終えてホテルに移動する前、化粧直しに入ったお手洗い……
鏡に映ったいつもより濃い化粧の自分の顔……
こんなの、私じゃない……!
蛇口を全開にしてその化粧を洗い流したい衝動に駆られる。
だけど、すぐさま重なる英二くんの笑顔に、グッとその衝動を抑えた。
大丈夫……ちゃんと出来る……
英二くんのためなんだから、私ならちゃんと……
「おじさま、お待たせ致しまし……た……」
笑顔で席に戻った瞬間、一体何が起こったのか分からず顔を固まらせる。
そこには、なぜかしっかりと正装した不二くんが、あの男の人と話をしていた……