第99章 【マコト】
青春台駅前____
約束の時間ギリギリに到着する。
普段、待ち合わせには余裕を持って着くようにしているのに、こんなにゆっくり来たのは、やっぱり嫌で嫌でたまらないから……
待ち合わせの定番スポット。
シンボルツリーの下は避けて、駅舎の横の目立たない場所に立つ。
このまま、相手の人が来なければいいな……そう思わずにはいられなくて……
無意識に、グイッとマフラーを上にあげて顔を隠した。
「……マコトちゃん、だよね?」
待ち合わせ時刻から10分遅れ……
来た……!
バクバクする心臓をギュッと抑える。
『マコト』は本名を出したくない私が指定した、いわゆる源氏名。
これが正解と信じた道だから……
私の信念の、マコト……
これでもう、逃げることは出来ない……
なんて、もともと、逃げ道なんて用意されていないんだけど……
すーっと大きく深呼吸をすると、心が何も無いときの水面のように静まり返る。
大丈夫、ちゃんと出来る……
英二くんのためなら、私、なんだって……
「……はい、今日はよろしくお願いしますね?」
口元を隠していたマフラーをズラし、その男の人の顔に自分が作れる精一杯の笑顔をむけた。
「えっと、なんてお呼びすればいいですか?」
「そうだな……パパもいいけど、キミみたいなタイプの娘には、おじさまって呼んでもらおうかな?」
はい、おじさま、そう返事をした笑顔とは裏腹に、気持ち悪いと心の底から思う。
ブランド物の品のいいスーツ……
高級メーカーの腕時計……
左手の薬指には結婚指輪……
年齢はわからないけれど、もしかしたら私くらいの子どもがいてもおかしくないくらい……
やだな……お父さんが、お母さんを裏切ってこんなことしていたら……
そんな風にイギリスに単身赴任中のお父さんを思い出し、なおさらこの人に嫌悪感を持ってしまう。