第99章 【マコト】
「……これで、よし……」
ドレッサーの前に立ち、自分の姿を確認する。
そこに映るのは胸が大きく開いた服に身を包む自分……
それはあの日、カラオケ店で男の人たちに乱暴されたとき、英二くんが用意してくれたもの……
もちろん、その服の下には、一緒に用意してもらった際どいレースの下着を身につけていて、もう二度と、袖を通すことなんてないと思った、そんな風に鏡の中の自分にため息をつく。
英二くんに用意してもらった服や下着を、こんな時に着たくはなかったけど、他にぴったりの服なんて持ってなくて……
相手の人は女子高生との交流を目的としているんだから、本当は制服の方がいいのかもしれないけど、それはもっと抵抗があるし……
「……そろそろ、出ないと間に合わないよね……」
鏡に映った時計に視線を向けて、くるりと振り返りちゃんと時刻を確かめる。
直接、ホテルで会う訳ではなくて、一緒に食事もとることになっていて……
そのためには、もう家を出ないといけなくて……
いよいよ逃げられない現実に、憂鬱でため息が溢れる。
ずっと泣くのをこらえていたけれど、英二くんと公園でのやりとりに、耐えられずに涙を流してしまった。
いったんこぼれ落ちた涙は、なかなか止まってくれなくて、英二くんを困らせているのに、しばらく泣き続けた。
「ゴメン、小宮山、本当に冗談だから……」
「違うんです、私が悪いんです……気にしないでください……」
別れ際まで、何度も英二くんは謝ってくれて、気にして欲しくないのに、涙の本当のわけなんて言えないから、ちゃんと誤解を解くことも出来なくて……
「小宮山、また、夜、電話するからさ?」
「……いいえ、今夜は出れるかどうか、分かりませんので……」
他の男の人に抱かれたその日に、英二くんと平気なふりして話せる自信がなくて、ついそんな風に断ってしまって……
そっか、じゃ、仕方が無いね、そう言って残念そうに肩を落とした英二くんの背中を、申し訳なく思いながら見送った。