第99章 【マコト】
英二くんの本当のお母さんにあったその日の夜に、英二くんには電話で都合が悪くなったことを伝えた。
オレの誕生日より大事な用事ってなんだよ!、そう英二くんはかなり不機嫌になってしまったけれど、遠方から親戚が訪ねてくると嘘をついて無理やり納得してもらった。
それじゃ仕方がないか、そう言って許してくれた英二くんに、ごめんなさい、そう何度も謝罪の言葉を繰り返した。
英二くんに嘘をつかないという約束を破り、秘密を作らないという約束を破り、誕生日を一緒に過ごすという約束を破り、他の男の人に抱かれるなんて、最大の裏切りをしようとしてる……
裏切らないでって、あんなに、英二くんに言われているのに……
だけど、英二くんを守るためには他に選択肢なんてなくて、嘘を隠し通すために、また新たな嘘をつかないといけなくなって……
全てが終わるまでに、私は何回、英二くんを裏切ることになるんだろう……
そう思うとすごく苦しくて、でもどうしようもないことで……
その辛い気持ちから目をそらすため、心の奥底へ自分の感情を押し込めた。
いつも日付が変わる前に英二くんがかけてくれる電話だけど、誕生日の前日だけは「私がお祝いしてあげたいから」そう言って私から通話をかけさせてもらった。
日付が変わってすぐに……とも思ったけれど、その瞬間を一緒に迎えたいと思って、結局、いつもの時間に通話をかけて、二人でカウントダウンで誕生日を迎えた。
お誕生日おめでとうございます、そう少し恥ずかしく思いながら声をかけると、あんがとー!って英二くんは嬉しそうに笑ってくれて……
そんな英二くんを裏切ってると思うと、やっぱり胸が苦しくて、ついつい何も話せなくなってしまって、電話の向こうで一人ではしゃいでいる英二くんの声を、泣かないように必死に涙をこらえながら聞いていた。