第98章 【プレゼント】
それでも、この人が英二くんをそのお腹に宿し、中絶という道を選ばず、この世へと送り出してくれたから……
結局、手放してしまったけれど、それまでは最低限だけど、養ってくれていたから……
「あなたのおかげで、私は英二くんに出会えました。大切な人と支え合い、愛し愛される喜びを知ることが出来ました」
あなたが英二くんを産んでくれたから……
英二くんがいなければ、その愛しさを知ることが出来なかったことだから……
「だから、本当にありがとうございました……お母さん……」
私のその言葉を、ずっと黙ったまま聞いていた英二くんの本当のお母さんは、目を大きく見開きながらその動きを止めていて……
持っていたタバコの灰がポトリと落ちて、慌ててそれを手で払うと、なによ突然、そう視線を泳がせ顔を背ける。
「英二くんがあなたに感謝できる日は、きっと来ないと思います……だから、代わりに私が感謝します」
ありがとうございました、もう一度繰り返してドアを開ける。
完全な私の自己満足だとしても、それでも、ケジメはつけておきたい……
「……英ちゃんの、誕生日だったわね……」
ドアを開けようとしたところで、ポツリと聞こえた言葉……
ハッとして振り返ると、英二くんの本当のお母さんは、少し遠い目でタバコを口にしていて……
「『俺が英一だから、こいつは英二だ!』ってあの人がいったの……産まれたばかりの英ちゃんを抱っこしながら、すごく嬉しそうに……ま、その後、すぐにどっかいっちゃったけどね……」
あぁ……良かった……
英二くんの本当のお母さんが、英二くんの誕生日を思い出してくれて……
良かった……
英二くんがこの世に生を受けたその瞬間は、ご両親に祝福されて迎えられて……
良かった……
英二くんの名前に、たくさんの愛情が込められていて……
英二くん……
英二くんは、ちゃんと愛されて生まれてきたよ____?