第98章 【プレゼント】
「……分かりました、言う通りにします。マージンなんていりません」
「さすが学年首席のお嬢さんね、あんたなら、そう言ってくれると思ったわ」
そう言って英二くんの本当のお母さんは、サラサラとメモをとり私の前に差し出す。
それを受け取り覗き込むと、そこに書いてあるのは、おそらくLINEのID……
「それから連絡するから、登録しといて」
「……分かりました」
わたしのその返事に、英二くんの本当のお母さんは満足そうな顔をして、それからグイッとビールを喉の奥に流し込む。
そんな空間からすぐに逃げ出したくて、でも言わなくてはいけないことが残っていて……
「……28日……その日は何の日か、ご存知ですか?」
「はぁ?、んなこと知らないわよ……」
その日は英二くんの誕生日……
お腹を痛めて産んだ母親なら、当然、忘れるはずなんかないはずの……
そうですか、答える声がもっと低いものになる。
「……なんなのよ、いっとくけど、そんな態度だったら客に対して失礼だからね!、ちゃんと愛想よくしなさいよ!」
「大丈夫です……ちゃんとしてみせます」
ちゃんとしてみせる……ううん、しなきゃいけない……
英二くんを守るためなら、私、何だってできる……
私がしないと、英二くんがまた傷つくことになるから……
何があっても、失敗することは許されないから……
「それでは、私はこれで……」
すっと立ち上がり、カラオケルームを出ようとする。
ドアノブに添えた手に力を込めて、それから少し考える。
「あの……」
「……なによ?」
英二くんの本当のお母さんを真っ直ぐに見つめる。
そんな私に、彼女が戸惑いの表情を見せる。
「英二くんを産んでくださって、ありがとうございました」
そのまま、深々と頭を下げた。
例えその後の育て方は、どうしようもないものだったとしても……
いまだに英二くんの幸せを脅かす、酷い母親だとしても……