第98章 【プレゼント】
カラオケ店から出ると、あたりはすっかり暗くなっていて……
疲れた表情で帰宅を急ぐ人達と、これから夜の街並みを楽しもうと繁華街へくりだす人達で駅前通りは賑わっている。
しばらく立ち止まり、ぼんやりと空を眺める。
こんな明るいネオンの下では、煌めく星の瞬きは、当然見えるはずもなくて……
確実にそこにあるのに、どうしても見えなくて……
「……小宮山さん?」
突然聞こえた声に振り返る。
そこにいたのは、驚いた顔で私を見る不二くん……
あぁ、もう、部活が終わる時間になってたんだ……
そう、駆け寄ってくる不二くんに笑顔を向ける。
「どうしたの?、もう、とっくに帰ったかと思った」
「はい……ちょっと……」
「英二の誕生日プレゼントでも探してたの?」
「……そんなところです」
目の前にたどり着いた不二くんが、微かにクンッと鼻を鳴らす。
あ、臭います?、そう髪の毛を一束つまみ、さっきカフェで隣の人が、そうしっかり染み付いてしまったタバコの香りを誤魔化す。
「……そう、それで、見つかった?、英二の誕生日プレゼント……」
「はい、見つかりました。私にしか、あげられないもの……」
そう、これは英二くんへの私からのプレゼント……
英二くんを守るためには、どうしても必要な……
「小宮山さん、送るよ」
「……すみません、今日は早く帰ったのに、結局……」
「ううん、いいんだよ、会えてよかった。小宮山さん一人じゃ心配だからね」
本当に優しい不二くん……
でも、不二くんにも言えない……
私が決めたことだから……
私がやらなきゃいけないことだから……
「……ありがとうございます」
ゆっくりと不二くんの隣に並んで歩き出す。
もう一度、見上げた空には、やっぱり星は見えなくて……
そんな真っ暗な空間を、ただ静かな心で眺めていた……