第98章 【プレゼント】
バクバクと鳴り響く心臓の音が、まるで危険を知らせる警戒音のように耳元で鳴り響く。
どうして、本当のお母さんが……?
頭がうまく回らなくて、ただ、背中を丸めて立ち尽くすしかなくて……
「……小宮山先輩?」
鳴海さんの声にハッとする。
顔を上げると、私のその様子に鳴海さんは怪訝そうな顔をしていて、あ……、いえ、なんでも……そうなんとか声を振り絞る。
でも、その向こうの英二くんのお母さんが、すべてを見透かしたような目で私を見ていて……
「あぁ、やっぱり、あなたの方は、全部、聞いてるのね?……英ちゃんから」
ゾクッ____
さらに一層、歪んだその笑顔が、まるで最初にあの公園で他の女の人と交わる英二くんを見たときの彼のそれと重なって……
そんな自分の感情が許せなくて、慌てて首を横に振り、その恐怖を追い払う。
「……はい、聞いています、多分、全て……」
「そう、それなら話は早いわ、私ね、あなた達にお願いがあるの」
「……お願い?」
「そう、きっとやってくれると思うわ、特に、小宮山さんなら」
彼女のその自信に満ち溢れる様子に、この人こそ、きっと全てを知っている、そう確信して息を飲んだ。
「ここなら落ち着いて話せそうね……なんなら一曲、歌ってもいいのよ?」
「いいえ、そんなことをしに来たのではありませんので」
「そう、なんか飲む?、私、ビール飲むけど」
「結構です」
タッチパネル式のリモコンを操作して、英二くんの本当のお母さんが注文する。
程なくして店員さんが、ビールと数点のおつまみを持ってくる。
ここは駅前のカラオケ店。
どこか、落ち着いたカフェで話を聞こうかと思ったら、人がいると話しにくいわね、そう言って英二くんの本当のお母さんが、勝手にここへと入っていった。
あの事件以来、どうしてもカラオケ店には良いイメージがなくて、思わず足がすくんでしまったんだけど、それでも一人取り残されるわけにも行かず、震える身体に気合を入れて、なんとかこの人に続いて入店した。