第16章 【ヘンカトフアン】
泣かないでいれば英二くんは、変わらずに私を求めてくれるの……?
でも、泣かないってどうすればいいの……?
今まで彼の前で必死に泣くのを我慢してきた私には、あれ以上、上手に我慢なんて出来そうもなくて、もうどうしたらよいか分からなくて……
目が覚めたときはあんなに優しかったのに……そう彼の腕枕の温もりを思い出してまた涙する。
そう、凄く優しかった、優しく微笑んでくれた……
優しすぎた……?
私、浮かれてしまって気がつかなかった……?
すうっと息を吸い込んで、酸欠になっている脳に酸素を送り込む。
そう、考えてみたら夢の話の前から、英二くんはやっぱりいつもと違ってた。
昼間は電話番号を教えてくれて、これからもこの関係を続けてくれるつもりだったのは間違いない。
今日の行為の最中に恥ずかしがったから面倒になった……?
でももしそうなら、以前のようにその場で怒るよね……?
私が寝てる間……?
まさか私の寝顔が酷かった……?
いやいや、だったら腕枕なんかしないよね……?
必死に頭をフル稼働させて色々考えたけれど、英二くんの気持ちなんてやっぱりわかるはずなくて、だいたいこんな時に冷静に考え事なんか不可能で、結局、気持ちは感情的な悲壮感に支配されていく。
いいのに……
英二くんの側にいられるなら、私、身体だけでいいのに……
もともと私達の間には彼の欲望だけしかなくて、しかも彼が私を気に入ってくれたのは、私の身体的特徴で、もしそれに飽きられてしまっては、もう私には彼をつなぎ止める手段は残ってなくて……
お願い、英二くん、いらないなんて言わないで……
携帯のディスプレイに映し出された彼の電話番号を眺める。
昼間、彼が私の携帯から掛けた発信履歴。
受話器マークをタップすればすぐに英二くんに繋がるのに、たった一度触れるだけなのに、ディスプレイまでのたった数ミリが、私にはどうしようもなく遠く感じてため息をついた。