第16章 【ヘンカトフアン】
ベッドから起き出し窓辺へと移動すると、そっと空を見上げる。
しらみ始めた東の空がもう直ぐ夜明けを告げていた。
泣きすぎてすっかり腫れてしまった目がジンジンと痛んで、胸の痛みを少し軽くした気がした。
そっと鏡を覗くと、泣きはらしたその酷い顔に思わず苦笑いをして、今日が日曜日で本当に良かった……なんて思う。
タオル、あてとこう、そう思ってクローゼットを開けると、一枚だけ別にしているタオルが目に留まる。
ネコ丸のタオル、英二くんに返しそびれちゃった……
また涙が滲み、慌ててクローゼットの扉を閉めた。
お母さんを起こさないようにそっと部屋を出てシャワーを浴びる。
それからキッチンで温タオルと冷タオルを作り、それをソファに横になりながら、腫れた目に交互にあてる。
気持ちいい……
瞼に染み込んでいくその温もりと冷たさは、まるで私の対する英二くんみたい、そう何となく思った。
暖かくて冷たくて、でもそれに触れる度に私の心に染み込んでは癒し慰めてくれる……
「……璃音?」
ふとお母さんに声を掛けられ、慌てて起き上がると、起こしちゃってごめんなさい、そう謝ってタオルを後ろに隠す。
そんな私に、ちゃんとあてときなさい、可愛い顔が台無しよ?そう言ってお母さんは優しく微笑んだ。
そんなお母さんも、どう見ても寝不足の目をしていて、心配かけてごめんなさい、と小さく謝ると、いいのよ、子供の心配をするのも親の仕事だもの、そう言ってお母さんは私の髪をそっと撫でた。
お腹空いたでしょ?少し早いけど朝ご飯にする?そう言うお母さんに、少し寝るから後で食べる、そう答えて小さく笑った。
部屋に入ってベッドに潜り込むとお母さんがコンコンとノックし、ホットミルクを持ってきてくれた。
ゆっくり寝れるわよ、そう言ってベッドの縁に座り私の髪を撫でてくれる。
温かい……ひとくち、口に含むと優しい味がして涙がにじんだ。
お母さん、私、将来、お母さんのような、母親になりたいな……そう言うと、随分気が早いわね、そう言ってお母さんは嬉しそうに笑った。