第97章 【ラブアンドピース】
誕生日は毎年、家族総出で祝ってくれて……
オレがガキの時、初めて菊丸家で祝ってもらった時のように、食べきれないくらいのご馳走と、きれいな飾り付けと、たくさんの笑顔で……
兄弟たちは大きくなってからは、もうそんな大げさにしなくなったのに、オレの誕生日だけは、いまだに家族みんなでお祝いしてくれていて……
ほんと、なんも知らないやつからみたら、本当に過保護に育てられてる末っ子だなって思われるだろうけど、それでもみんな、欠かさず集まってくれて……
そんな家族の気持ちがありがたいから、今年の誕生日は小宮山に祝ってもらうことを、なんて切り出そうか前々から迷ってたんだけど、やっぱりなかなか言い出せなくて……
「やっぱり、そうよね……とうとう英二の誕生日も『家族でお祝い』は卒業よね……」
「ん……ごめん……」
「なんで謝るのよ、謝ることじゃないでしょ」
「そうだけど、さ……なんとなく……」
家族とオレの間には、きっと何歳になっても、見えない壁があって……
もちろん、それは嫌な壁じゃないけど、きっとみんな心の奥底では、本当の親子と違う遠慮みたいなもんが、見え隠れしていて……
ジリジリとかたまり始めた目玉焼きを、焦がさないように弱火にする。
蓋を閉めて蒸し焼きにしながら、やっぱ、オレ、いつも通り祝ってもらおうかな……、そうポツリと呟いた。
「え?、だって、小宮山さんにお祝いしてもらうって約束したんでしょ?」
「……そうだけど、さ……」
フライパンの中に視線を向けたまま、歯切れの悪い返事をする。
だって、きっと、小宮山は分かってくれる……
ご家族の気持ちを大切にしないとダメですよ、って逆に怒られるだろうし……
なにも気を遣うことないのよ?、そう言うかーちゃんに、そんなんじゃないよん、ほんと、なんて言って、満面の作り笑いを向けた。