第97章 【ラブアンドピース】
「ねーちゃん、タマゴ、なに?」
「んー……目玉焼き」
「オッケ〜!」
コンコンっとフライパンの淵でタマゴを割り、ジュっと音を立てさせる。
朝のキッチン、菊丸家のいつもの光景……
大好きな光景……
あれから数日____
クラスのみんなが全面的に小宮山の味方になってくれたから、小宮山が表立ってなんかされることはなかった。
嫌がらせで置かれた菊の花を教室に飾ったという、小宮山独特のエピソードが、市川の言う通り、嫌がらせの牽制になったのもあるかもしんない。
不二のフォローもあって、あんなに怒り狂っていた不二のファンも、一先ずは納得したようで、SNSで大炎上していた小宮山の陰口も、徐々に収まったみたいで……
それから、生徒会執行部でも問題なく過ごせてるようだし、まぁ、細かいことは色々あるみたいだけど、小宮山が笑顔で学校生活を送れているようで本当によかった。
そういや小宮山は、クラスメイトからオレとのことをいろいろ聞かれていて、その度に、あ、う、え、そう真っ赤な顔で慌てていたから、あー、ほんと、璃音の好きな人、不二くんじゃなくて英二だ、なんて笑われてて……
んじゃ、学祭でたこ焼き失敗したの、アレも英二のことで悩んでたからなんだねって、みんなに言われてて、あ、いえ、それは、その、そう慌てて否定しようとしてるんだけど、もうみんなの納得している様子に何も言えなくなっていて……
そんな小宮山の様子が可笑しくて、必死に声を殺して笑っていたら、そんなオレに気がついた小宮山に、恨めしそうな顔で睨まれた。
そんなこんなで、身構えたほど問題はなくて……
あー……平和ー……なんてのんびりとフライパンのタマゴをみつめる。
「そういや、あんた、28日のことなんだけど……」
キッチンのドアが開いてかーちゃんに声をかけられる。
その言葉にドキッとして、あー……って言葉を濁しながら、小宮山に祝ってもらうけど……、そう気まずい思いで返事をした。