第96章 【カンシャ】
「ちょっと、不二に市川〜?、なーんか、オレに怨みでもあんのー?」
英二くん!、後から聞こえた英二くんの声に慌てて振り返ると、そこには不満げな顔の英二くんが立っていて、ずんずんと私を追い抜き、美沙と不二くんに詰め寄ると、好きかって言ってくれんなー、なんて頬を膨らませる。
「オレだって小宮山のこと、ちゃんと心配してるし、考えてるっての!、ちょーっと遅かっただけじゃん!」
「その、ちょーっとの間に何かあったらどうすんのよ?」
「うぐっ、それはそーだけど……でも、もうこの菊丸さまが来たからには、小宮山には指一本触れさせない!」
「クスッ、大きく出たね……」
突然あらわれた英二くんが、すごく頼もしいことを言ってくれるんだけど、みんなの前で、しかも遠巻きに他の生徒達もこちらの様子を伺っている状況だし、とにかく恥ずかしくてカーッと顔が熱くなる。
「あ、あの、英二くん、あまりそう言うこと、人前で言うのは……」
「あら、璃音、ふたりの時ならいいの?」
「美沙!、からかうの、やめてください!」
あー、もう、そう頭を抱えながらも、ふと周りの様子に目を配ると、みんな顔を見合わせて私たちを見ていて、なんか和気あいあい?、そう不思議そうに囁きあっていて……
「小宮山さんはずっと英二しか見ていないよ、僕はただの友達」
そんな人混みを意識してか、不二くんが顔色変えずそう声を上げる。
ざわつく生徒達……
不二くん、せめて私が不二くんから乗り換えたって噂だけでも否定してくれてるんだ……
「ありがとうございます……本当にいつも……」
いつも、不二くんは英二くんと私のことを、しっかりと支えてくれる……
いつもその優しさに甘えるだけで、何も返すことが出来ない自分が情けなくなる……
深々と頭を下げると、顔を上げて、小宮山さん、そう不二くんが優しい声を掛けてくれる。
いつか私も不二くんの親切に報いたい……
すべては返せなくても、ほんの少しだけでも……
みんなで教室へと移動しながら、そう前を歩く不二くんの背中を眺めた。