第96章 【カンシャ】
ありがとうございます、そう言って通話を終わらせると、お母さんと目が合って、美沙ちゃん?、なんて声をかけられる。
うん、迎えに来てくれるって言ってくれたけど断ったの、そう答えたら、英二くんにも美沙ちゃんにも、本当に愛されてるわね、なんて笑われて……
「お母さん、もう心配しないわ……璃音、今、本当に良い子たちに囲まれているもの……」
優しく髪を撫でてくれるお母さんに、ん、大丈夫だよ……、そう言ってそっと呟く。
大丈夫……、私はもうひとりじゃない……
英二くん、美沙、そして不二くんやテニス部のみんな……
みんなが私を支えてくれる……
私もみんなを支えていける……
「行ってきます、お母さん、ネコ丸」
玄関先でいつものように空を眺める。
大丈夫、大丈夫……、そうゆっくりと自分に言い聞かせた。
学校が近づいてくると、周りは当然、青学の生徒たちが目立ってきて……
ううん、目立っているのは私……
覚悟はしていたけれど、突き刺さる視線が痛すぎて……
こんな状況、いくら慣れてるといったって、不安で胸がバクバクする。
やっぱり、英二くんはダメでも、美沙には一緒に行ってもらえば良かったかな……
不二くんを裏切って、英二くんに乗り換えた女なんて、ハッキング以上に印象最悪だよね……
はぁ……っとため息が出そうになり、慌ててそれを飲み込んだ。
弱気になったら、どんどん飲まれてしまいそうで……
だったら前みたいにツンツンしてた方が、そう思って気持ちを切り替えようとしたけれど、前はあんなに簡単に自分の殻に閉じこもることが出来たのに、今はどうしていたのか全然思い出せなくて……
それだけ、居心地のよい場所を手に入れたってことだよね……
「璃音、おはよ!」
顔を上げると、校門のところで美沙が待っていてくれた。
いつも時間ギリギリなのに、私に合わせて早く来てくれてたことが嬉しくて……
おはようございます、そう私も心からの笑顔を向けた。