第96章 【カンシャ】
『璃音、今日、迎えにいくから!』
「迎えにって……何、言ってるんですか、美沙の家、学校の目の前じゃないですか……」
『いや、そうだけど、でも……』
「大丈夫ですよ、一人で行けますから……」
水曜日、珍しく朝、美沙から通話が入って、不思議に思って受けたら、何故かそんなふうに言われて……
ううん、「何故か」じゃない、美沙、私のこと心配してくれて……
学校全体に英二くんとのことをしられちゃったから、そのせいで何かさせるんじゃないかって、危惧して……
危惧してくれたのは美沙だけじゃなく英二くんもで、昨日、遊園地から家まで送ってくれた時も、同じように迎えに来るって言ってくれて……
「ありがとうございます、でも大丈夫です。一人で行きますから……」
「でもさ、オレたち、もう付き合ってんの、隠しても仕方が無いしさ?」
そう言ってくれた英二くんに、ゆっくりと首を横に振った。
英二くんの気持ちはすごく嬉しかったけど、でも、やっぱりふたりで堂々と登校する気にはならなくて……
「ダメですよ、私たちは、ほかの方を傷つけて幸せになったんですから……」
その私の言葉に、英二くんの目が見開いて、それから、そっと伏せられた。
ん、そだね……、そう英二くんも静かに返事をした。
そう、私たちは鳴海さんを傷つけた。
それは仕方が無いことだけど、でもやっぱり、彼女に幸せそうなところを見せてはいけなくて……
私だって、英二くんと鳴海さんを目撃するたび、すごく辛かったから……
ましてや、今回のことで、鳴海さんは好奇の目に触れることになってしまったわけで……
それを言ったら、完全に巻き込んでしまった不二くんもそうなんだけど……
「だから、今まで通りで……」
「ん……分かったけどさ、でもオレ、もし小宮山がなんかされそうになったら、そんときは黙ってないかんな?」
そう力強く言ってくれる英二くんの気持ちが嬉しくて……
大切にされてるって実感して……
はい、ありがとうございます、そう滲む涙をそっと拭った。