第16章 【ヘンカトフアン】
長い沈黙のが続く。
ううん、本当はそれほど長くないのかもしれない。
でも私にとって、永遠とも思える苦しい沈黙が続いた。
心臓が壊れると思うほど激しく脈を打ち、全然息もできなくて、胸が苦しくて身体中がガクガク震えて止まらなくて……
イヤ、お願い、それ以上言わないで、ただそれだけをずっと心の中で繰り返していた。
ふと私の前髪に触れられたのを感じビクッと身体が跳ねる。
恐る恐る目を開けると、少し困った顔で笑う英二くんが私の髪をなでていた。
「んな顔すんなって……」
そう言って彼が私の髪を撫でていた手を後頭部で止めると、そっと引き寄せて額にキスをしてくれる。
それから、コツンと額同士を併せてそっと微笑むと、また学校でな、そう言って私の髪をもう一度なでた。
そんな彼に何も言えず、英二くんが玄関から出ていくのをただ泣きながら見送った。
そして英二くんの足音が聞こえなくなると、そのままその場に崩れるように座り込む。
本当は何を言おうと思ったの……?
いつまでもおさまらない胸のザワザワを、必死に両手で抱えてうずくまると、堪えきれない泣き声が嗚咽となって溢れ出す。
っく……ひっく……な、んで……?
怖い……
英二くんがもう求めてくれないような、そんな気がして怖くて仕方がない……
「あ……ああっ……イヤ……イヤァッ!!」
そう思わず大声で泣き叫ぶと、抱え込んだ腕に爪が食い込み鋭い痛みを発する。
でもそれ以上に胸が張り裂けそうに痛んで、その爪の痛みを掻き消した。