第95章 【ソラニウカブ】
「今度は離しちゃだめだぞ?」
「あー、ヒーローのお兄ちゃんだ!」
目の前でうっかり手を離してしまった子どもの風船を、高くジャンプして取ってあげると、その子はさっき悪ノリで参加したヒーローショーを見ていた子どもで……
集まってきた周りの子たちも一緒になって、またしてもノリでヒーローショーになちゃって……
「ほら、そろそろ帰らないと……お兄ちゃんに『ありがとう』しなさい?」
「えー、やだ、まだ遊びたい!」
「ダメよ、お姉ちゃん、ずっと待ってるんだから」
そんな母親の声にハッとする。
小宮山をひとり待たせてることに気がついて、ゴメン、小宮山!、そう慌てて振り返ると、構いませんよ、そう言って小宮山は柔らかい笑顔を見せた。
気がついたらもう閉園時間も迫ってきていて、人も疎らになっていて、慌ててベンチに座っている小宮山に走りよる。
「うわー、肝心なの、まだ乗ってないのにっ!」
「え、英二くん、あの……?」
戸惑う小宮山の手を引くと、んじゃ、気をつけて帰れよー!、そう大きく手を振り遊園地の一番奥に走り出す。
お兄ちゃん、どこ行くのー?、そう背中から聞こえた声に、観覧車!、そうウインクをしながら、ひときわ大きなアトラクションを指差した。
「……観覧車って……」
「恋人同士の遊園地、閉園間際って言ったら相場は決まってるじゃん?」
園内は冬らしくキラキラと輝いていて、大観覧車もすっかりイルミネーションで彩られていて……
キレイ……、小宮山がうっとりとした目でそれを見上げる。
「ほら、早く早くっ、きっと観覧車からみた街はもーっとキレーだぞ?」
そんなオレの誘いに、小宮山はすごく嬉しそうな顔で頷いて……
やっぱ、小宮山、夢みる乙女だから、こんなシチュ、好きだと思ったんだよね……
小宮山が喜んでくれたことが嬉しくて、行こ!、そう語尾を跳ねさせ搭乗口へと駆け出した。