第95章 【ソラニウカブ】
「あ、あの、英二くん、行こうって、その、どこへ……?」
「んー……天気もいいし、そんなに寒くないし……遊園地とか!」
小宮山、遊園地嫌い?、そう首をかしげて私の顔を覗き込む英二くんに、ふるふると首を横に振る。
嫌い、ではないと思います……、そう返事をした私に、もしかして、行ったことない?って英二くんが聞くから、あ、いいえ、でも、子どもの頃以来で、あまり覚えてなくて……、そう慌ててそれを否定する。
まだ小さな子どもの頃、お父さんとお母さんに連れていってもらった記憶はある。
遊園地全体がキラキラしてて、どのアトラクションもおとぎ話の世界みたいで……
本当にただの小さな遊園地だったんだけど、そのおとぎ話のような空間がとても輝いて見えた。
「マジで?、んじゃ、決定!、そうと決まったら、レッツゴー!」
「は、はい!」
英二くんと一緒だから、きっと今日もとっても素敵に違いなくて……
英二くんに腕を引かれながら、ワクワクする胸をギュッと抑えた。
「あ、子どもの生まれそうな妊婦さんには、そんな謂れがあったんですね」
「うんにゃー、おチビのはただの言い訳だったけどさ、関東大会でほんとに大石が妊婦さんを助けて遅刻してさー……」
英二くんと遊園地行きの電車に乗りながら、朝の遅刻のときの言い訳について話をして、それから、英二くんがまだ朝食を食べてないって知って、目的地の最寄り駅で慌ててカフェに入店した。
英二くんはもう朝食じゃなくブランチになっちゃったけど、美味しそうにたまごサンドを頬張っていて、私はそんな英二くんを微笑ましく思いながら、少し早いランチのキッシュを口に含む。
遊園地に着いたら、きっと英二くんのペースで大はしゃぎになるだろうから、束の間の穏やかなひとときを堪能しなきゃ……
紅茶を飲みながら出窓の向こうの空を眺める。
表の通りには駅から遊園地へと向かうであろう男女が、仲良さそうに歩いていて、私達もあんなふうに見えるのかな?、なんて思ったら頬がにやけて仕方がなかった。