第95章 【ソラニウカブ】
「……んじゃ、レシピとかコツとかまとめたもの、今からLINEするから。口で説明すんのめんどい」
『ああ、すまないな、本当に助かるよ!、そうだ、良かったらみんなと学園祭に来てくれよな!、それから……ほら、小宮山さんも一緒に……』
「小宮山がその学校に行くわけないじゃん!、ほんと急いでるから切るかんな!」
どんだけ嫌な思い出になってるか分かってんのかよ、なんて思いながら通話を終わらせると、以前、クラスのみんなに説明するためにまとめたレシピや、作成した動画を呼び出して、大石のLINEに貼付して送信する。
すぐに付いた既読文字を確認すると、すぐに小宮山に通話!って思って、でももう、それも意味の無い場所まで来ていて、もういいやって、とにかく小宮山の家に全速力で走り抜けた。
もうこれ以上早く走れないってくらいダッシュで駆け抜けて、例えば、まっずい汁の入ったジョッキを手にして不気味に笑う乾から、本気で逃げ回るときと同じくらい全速力で走って、なんとか小宮山の家の前にたどり着いた。
ハァ、ハァと肩で息をしながら、インターホンを鳴らすと、すぐに勢いよく開いた玄関のドア……
「小宮山、遅れてゴメン!」
「英二くん、無事だったんですね!」
二人の声が同時に重なり、あ、そう顔を固まらせる。
オレと同じように小宮山も固まっていて、数秒、沈黙が訪れる。
「ご、ゴメン、小宮山……、オレ、遅れちって……」
「あ、いいえ、良かったです……、私、何かあったんじゃないかって……」
「あ、うん……えっと……子どもが産まれそうな妊婦さんを助けていて……」
「ええ、大変!、あの、大丈夫だったんですか……?」
それは以前、都大会におチビが寝坊で遅刻した時に使った言い訳……
それから、関東大会で本当に大石に降りかかった本当の出来事……
オレたちの間じゃ定番の言い訳だけど、小宮山にそれが通じるはずなくて……
ゴメン、冗談、寝坊した……、そうバツが悪くて頭をかくと、そんなオレに小宮山は苦笑いをみせた。