第95章 【ソラニウカブ】
「……英二!、英二ってば!」
暖かいお布団の中、いつまでもそのふかふかにくるまっていたいのに、いつもその幸せを邪魔するのは、煩いねーちゃんの声……
煩いけど、嫌じゃない……
小宮山の声とは別物だけど、これもとっても幸せな……
「……うーん、あと、5分だけ、寝かせてにゃ~……」
あとちょっとだけ、ほんのちょっとだけ、この煩い声を聞いていてもいっかなー……、なんて思いながら、グイッと布団を手繰り寄せて顔を埋める。
「……別にいいけど、もう、私、大学行くからね!」
「……ほいほーい……いってらっしゃー……い……」
布団から、手だけ出してヒラヒラと二度振ると、オレはもうちょっと寝るー、そう思ってもう一度、布団に潜り込む。
ねーちゃん、大変だねー、オレは今日、振替休日で良かったー……
ねーちゃんの気配が遠のくのを感じながら、微睡む意識の中でそんなことを考えた。
「……ところで、あんた、今日、小宮山さんとデートって言ってなかった?、さっき、着信あったみたいだけど?」
小宮山……と、デート!?
もう一度夢の中に落ちる直前、一瞬で意識が覚醒した。
うわぁ!、そう叫びながら飛び起きて、キョロキョロと辺りを見回すと、ベッドの下に落ちていた携帯を拾い上げて時間を確認する。
小宮山との約束は10時……
だけど、既にその約束の時間から30分以上過ぎていて、ねーちゃんの言う通り、小宮山から恐らく確認の着信が入ったところだった。
「あー、もう!、ねーちゃん、なんでもっと早く起こしてくんなかったんだよっ!」
「そんなの自己責任でしょ?、言っとっけど、私の小宮山さん泣かせたら、あんたの未来ないわよ?」
「いつからねーちゃんの小宮山になったんだよ!、小宮山はオレのって言ったじゃん!」
って、んなくだらないことでねーちゃんと言い争ってる時間なんかないっつーの!
慌ててパジャマを脱ぎ捨てると、適当な服を引っ掛けて、そのままダッシュで洗面所へと向かった。