第16章 【ヘンカトフアン】
「……夢、見てた?」
「夢……ですか……?」
彼に背を向けて服を着る私に、そういやさ、と彼が問いかけるから、うーん、と少し考える。
夢って言っても、英二くんの腕枕があまりにも気持ちよくて、ただまどろんでいただけのような気がするけれど……
でもそう言われると、その前は、落ちていく深い闇の中で何かを感じたような……?
闇の奥底から感じた気配は嫌なものではなくて、どちらかと言えば必死に助けを求めているような気配で……
あれは……何だったんだろう……?
あのまま落ちていってたら、はっきりわかったのかな……?
「はっきり覚えていないんですけど……誰かが泣いてたような……」
そう言って私が返事をしたけれど、それに対する英二くんからの返事はなくて、聞こえなかったのかな?そう思って振り返って彼を見ると、窓辺に座る彼はただ黙って俯いていた。
「英二くん……?」
そっとそう彼に問いかけると、泣いてんのは小宮山じゃん……?そう言って彼は俯いたまま笑った。
「私じゃないですよ……?私は見ていただけで……」
彼のその様子に心臓がザワザワして妙な胸騒ぎを感じ息を飲む。
気のせいだよね……?、そう自分に言い聞かせながら答えると、彼は顔を上げて空を見上げ、そっか、そう一言だけ呟いて、その後はもう何も言わなくなった。
本当に……気のせいだよね……?
何でも……ないよね……?
初めて見せた彼のその態度に、言い知れぬ不安と胸騒ぎを感じ、ギュッと握った拳で胸を抑えてそれに気がつかない振りをする。
それからすうっと大きく息を吸い込むと、急いで片づけちゃいますね、そう何でもない顔をして乱れたベッドを整えた。