第94章 【ドウカシアワセニ】
「……小宮山先輩に伝えてください……『申し訳ありませんでした』と……、謝って許される問題じゃないですけど……」
その芽衣子ちゃんの言葉に目を見開いた。
あ、えっと……そうなんて言ったらいいか、戸惑っているあいだに、芽衣子ちゃんはゆっくりとドアを開けた。
「……それから、私、幸せでした……先輩が助けてくれて、一時でも小宮山先輩より私を優先させてくれて……ありがとうございました……本当はもっとずっと先輩と一緒にいたかったけど……」
どうか小宮山先輩とお幸せに、そう言ってパタンと閉じたスタッフルームのドア……
……芽衣子ちゃん……
芽衣子ちゃんが掛けてくれたその言葉に、直接、お礼を言おうとドアに駆け寄って、でも、その先から微かに嗚咽が聞こえてきて……
きっと、今、このドアの向こうでは、芽衣子ちゃんが泣き崩れていると思うと、ズキンと胸が痛んだけれど、でももう、オレにしてあげれることは何もなくて……
芽衣子ちゃん、あんがとね……
それから、好きになってやれなくて、本当にゴメンな……
オレはしてあげれなかったけどさ、きっと桃が……
桃じゃなくても、いつか絶対、芽衣子ちゃんが好きになった誰かが、キミを幸せにしてくれるから……
「芽衣子ちゃんも、どうか幸せに……」
ドアの向こうの芽衣子ちゃんには聞こえないように、ほんの微かな声で呟いた。
「もしもし、小宮山?」
「は、はい!、あの……小宮山です」
バイトを終わらせると、急いで自宅に帰り、約束通り小宮山に通話をかける。
慌てて声が裏がっているその様子を微笑ましく思いながら、小宮山、あのさ、オレ、絶対、小宮山を幸せにするから!、そう勢いよく声をかける。