第94章 【ドウカシアワセニ】
ゴメン、小宮山……
芽衣子ちゃんの最後のお願いだから……
最後に、抱きしめるだけだから……
恐る恐る、芽衣子ちゃんの背中に腕を回すと、芽衣子ちゃんもしっかりと抱きしめ返してくる。
甘い香水の香りがふわんと鼻腔をくすぐって、小宮山への罪悪感も合わさり妙にドキドキして……
芽衣子ちゃん……本当に、ゴメンな……?
オレ、ちゃんと大切にしたいって思ってたんだ……
あの部屋で一人ぼっちの芽衣子ちゃんが、ガキの頃のオレと重なって……
同情だって言われたら、そうなんだけど、でも……
自分だって、同情されることが、あんなに大嫌いなのにな……
時間にしてほんの数秒……
芽衣子ちゃんへの色んな思いが溢れてきて、最後だから、そうもう1度自分に言い聞かせると、キツくその身体を抱きしめた。
「……先輩、ほんと、お人好し……私がまた何かしたらどうするんですか?」
腕の中の芽衣子ちゃんが、急にクスクスと笑いだす。
ハッとしてその肩を押し戻すと、慌てて後ずさりして距離をとる。
顔を上げた芽衣子ちゃんは、まるで保健室でオレと小宮山に見せたような笑顔で……
バクバクと大きく心臓が不安な音を立て始める。
「な、何かって……何、するつもりだよ……?」
「さぁ……?、こっそり隠し撮りしてて、上手に編集して小宮山先輩にそうしーん、とか?」
芽衣子ちゃんのその言葉に、慌ててスタッフルーム内を見渡した。
オレが来るまで芽衣子ちゃんはここに一人でいて、カメラなんて隠し放題だったはずで、機械音痴のオレには、全く理解できない方法で加工されたら……
目に浮かぶ小宮山の泣き顔……
このままじゃ、また、小宮山を傷つける……
オレの甘さが原因で……
もう泣かせたくないのに……
平気ですって、無理に笑わせたくないのに……
一気に全身の血の気が引いていった……