第94章 【ドウカシアワセニ】
「……あのさ……桃、すげーいいやつだからさ……オレが言うのもなんだけど……」
昨日、携帯で不二が言った言葉……
芽衣子ちゃんも桃に心を開いたようだって……
だから、オレも芽衣子ちゃんの心配をしないで、小宮山のところに戻れたんだけど……
「……先輩、無神経。2年以上も大好きなのに、そんな簡単に気持ちは変わったりしませんよ?」
その芽衣子ちゃんの言葉にハッとする。
顔を上げると芽衣子ちゃんは困ったように苦笑いしていて、そこが先輩らしいですけど、なんて静かに目を伏せる。
そりゃ、そうだよな……
オレ、また考えなしなこと言っちゃって……
自分の気が楽になりなりたいからって、謝ってるそばから、また、すげーひどいことを……
ゴメン……、そう俯いてまた謝るしかなくて……
「先輩、あの……最後にもう一度だけ、抱きしめてもらえませんか?」
へ?って思って、顔を上げる。
すると芽衣子ちゃんは真剣な顔でオレを見ていて……
だって、それは……、そう慌てて視線を泳がせると、オレの目の前まで歩み寄った芽衣子ちゃんが、ダメですか?、そう言って泣きそうな顔で視線をあげる。
「だ、ダメに決まってんじゃん……だって、オレ……」
「分かってます……先輩には小宮山先輩がいますもんね……でも、私だって……、本当に先輩のこと大好きなのに……あんな……」
そんな風に涙目で上目遣いされると、正直、この顔にはほんとに弱くて……
これで最後ですから……、そうとんっと、オレの肩にもたれ掛かった芽衣子ちゃんに、どうしようか迷ってしまって……
当然、頭ん中には小宮山の顔が浮かんでいて、んなこと出来るはずないじゃん!って思うんだけど、でも目の前の芽衣子ちゃんへの罪悪感もやっぱ大きくて……
小刻みに震える芽衣子ちゃんの肩が、ズキンと胸を痛ませた……