第94章 【ドウカシアワセニ】
「……んじゃ、オレ、そろそろ……行かなくちゃ……バイト……」
幸せな時間はあっという間に過ぎるもので、二人で寄り添いながらキスしたり、話をしたりしている間に夕方になっちゃって、もうそろそろ小宮山んちを出ないとバイトに遅刻する時間になっていた。
学校が休みでもバイトがあるのは仕事なんだから当然で、バイトがあるということは、芽衣子ちゃんと顔を合わせることになるわけで……
昨日の今日で、こんな気まずいことって、無いよなぁ……
気まずいのは芽衣子ちゃんと会うことになるだけじゃなくて、同じバイトをしていたってもう知っている小宮山に対しても、気まずくて仕方がないんだけど……
「……頑張ってくださいね?」
あぁ、小宮山、すげー無理して笑ってる……
出会った頃から、小宮山はいくらツンツンしていても、オレに関することだけは分かりやすくて……
一生懸命隠していても、その心の中は思いっきり顔に出ていて……
「……オレ、バイト、辞めよっかな……?」
やっぱ、小宮山、イヤじゃん……?
オレと芽衣子ちゃんが、いつまでも同じバイト先で働き続けるなんて……
そんなオレの言葉に小宮山は少し戸惑って、私のことなら気にしないでくださいね?、そう言ってまたぎこちなく笑うから、夜、通話かけるよん、そう言って少しでも安心してもらえるようギュッと強く抱きしめた。
「……お疲れ……でーす……」
バイト先につくと、そーっとドアを開けてスタッフルームを覗き込む。
おー、お疲れー、そう口々に挨拶してくれるスタッフ達……
芽衣子ちゃんは……まだ来てないや……
ホッと胸をなで下ろして中へと入る。
「あれ?、菊丸くん、今日、鳴海さんと一緒じゃないんだ?、珍しいねー?」
バイト仲間の1人が何気なく問いかける。
オレ達が付き合ってたのはバイト先でも周知の事実で……
あー、うん、ま、ね、そう気まずく思いながら視線を逸らした。