第94章 【ドウカシアワセニ】
『そう、小宮山さんがいれば英二は必ず戻ってこれる、僕はそう信じているんだ』
それは以前、インターハイ優勝の祝勝会のとき、河村くんのおうちで不二くんに言われた言葉……
来年は英二くんとダブルスを組みたいって、私がいるから大丈夫って……
その時の不二くんの自信あふれる力強い口調、そして確信に満ちた鋭い眼差し……
私だって、出来ることなら、また英二くんに大好きなテニスをさせてあげたい……
でも、どうしたらいいのか、その方法が全然わからなくて……
中学の時、突然現れた本当のお母さんに、テニスラケットで全身を何度も殴打された苦しみは、幼い頃の記憶と混ざり合い、深く深く、英二くんの心の奥底まで届く傷を残した。
その傷は時間とともにカサブタになることはあっても、決して癒えることはなく、ふとした瞬間にポロポロと剥がれ落ちてしまう……
いくら表面だけ乾いたって意味が無い……
深く傷ついた心の奥底の、傷そのものを癒してあげないと……
でも、だから、それはどうやって……?
自分の無力さに、英二くんにも不二くんにも、申し訳ない気持ちで一杯になる。
ギュッと下唇を噛んで俯くと、そんな私に、どったの?って英二くんが心配そうな顔をするから、何でもありません、そう慌てて笑顔を作ってそっと寄り添う。
はやくその方法が見つけられるといいな……
テニスコートに光り輝く、あの英二くんのキラキラな笑顔が見たい……
「英二くん……大好きです……」
「ん、オレも、すげー、好きだよん」
英二くんが私の頬に触れて顔をのぞき込む。
近づいてくる英二くんの瞳には私が映っていて……
ゆっくりと瞳を閉じると、瞳の奥に英二くんを閉じ込める。
それと同時に、ふわりと彼の唇が重なった。